3.対処法:適切行動支援②

 

     適切行動支援で本人も周りも気持ちよく

 

 

     予防策と緊急対処策の併用

 

 

前回は、適切行動支援がなぜ「罰」を使わないのか、その理由について説明しました。今回は、嫌悪刺激(罰や本人が嫌がる刺激)を使わずに、不適切な行動を減らす方法について説明します。

 

適切行動支援では「予防策」と「緊急対処策」の両方を活用して、不適切な行動の起こる「回数」「持続時間」「深刻度」をそれぞれ減らすことによって、総合的に減らしていきます。

 

「予防策」では、事前に対策を行うことによって、不適切な行動が起こる事態そのものを減らします。不適切行動が起こらないように、前もって、当人に新しいスキルを教えたり環境を調整したりします。「緊急対処策」は、事態が起こってしまった時、当人が興奮したり暴れている時に、迅速に安全に事態を収めるために使います。

 

 たとえば、学校に‘友だちを叩く’子どもがいたとします。叩いた後で叱ったり諭しても、前回の「罰を使わない理由」で説明したようにこの方法では行動を減らす上で効果が期待できません。叩いた後ではなく‘叩いていない’状態のときに、「(学習に集中していて)えらいね。」と褒めてよい行動を強化する方が効果があります。また、教室から体育館に全員で移動するときに、友だちを叩くと分かっている場合には、‘移動中はポケットに手を入れて歩く’と新しいスキルを教える、‘友だちが移動し終わったあとで当人を移動させる’など事前に環境を調整すれば問題を起こす機会そのものを減らすことができます。これが予防策です。

 

しかし、予防策がいつも成功するとは限りません。予防策がうまく行かず不適切行動がエスカレートした時には、すばやく「緊急対処策」に切り替えます。

 

行動がエスカレートした時には、脳が極度に興奮しています。ここで叱ったり諭そうとすると、それが刺激となりさらに脳を興奮させてしまいますので、刺激を与えないように行動します。要求はせず、声はかけず、身体的な衝突は避け、静かに回復できる個室に誘導します。必要ならば、静かに落ち着いた声で、一人だけが話しかけます。脳が回復すれば行動も回復します。行動を力で押さえるのではなく、脳への刺激をコントロールすることによって、行動を収めるようにします。

 

「緊急対処策」はいわば応急処置ですので、不適切行動の深刻度を下げることはできますが、行動を改善するための役には立ちません。行動を改善していくためには、「予防策」を多く活用することが大切です。肝心なのは先に先に手を打つことです。

 

執筆者:ゲラ弘美(同協会代表・知的発達障害心理士)

 

文:認定NPO法人ポーテージ協会の機関紙「Portage Post2018 年冬号の掲載文を一部修正し転載