2.対処法:適切行動支援①

 

困った行動は罰を使わずに、適切行動支援で減らしましょう。

 

 

 

 罰を使わない理由

 

 

適切行動支援(PBSPositive Behavior Support、直訳:積極的・前向き・ポジティブな行動支援)は『罰』を使わない問題行動への対処法です。応用行動分析をその技法のベースとしています。福祉先進国の英国では、強度行動障害のある人たちが、適切行動支援(PBS)により、(病院や施設への隔離ではなく)地域社会で暮らしています。日本でも、特別支援学校へ導入する研究が進められています。

 

適切行動支援(PBS)には、次のような特徴があります。1.罰(本人が嫌がる刺激)を使わない。2.行動の機能に基づいて支援策を立てる。3.「予防策」と「緊急対処策」の両方を併用する。3.不適切な行動をしなくてもいいように代替となるスキルを学んでもらう。4.支援に関わる全員(家庭・学校・デイケア・医療福祉)が連携しチームワークで対応する。

 

今回は「1.罰を使わない」と「2.行動の機能」のさわり について説明します。

 

罰を使わないのには理由があります。これは、長年にわたり不適切行動を繰り返している児・者に「罰」を与えても行動は改善せず、かえって行動を悪化させてしまうことの方が多いと、過去の研究蓄積から分かっているからです。

 

たとえば、教室に隣の席の子を叩く子どもがいたとします。叩くたびに、先生はその子を注意したり教室の隅に移動させていました。実はその子どもは、先生の注目がほしい、難しい課題から逃げたいという理由で隣の子どもを叩いていたのです。ある日、隣の子をさらに強く叩くと、先生は別室に叩いた子を連れて行き、こんこんと説教しました。それで子どもは、さらに強く叩けば先生と別室でお話しできると学んでしまいました。私たちは、罰が効かないと、さらに強い罰を与えなければと考えがちですが、しかし実際には罰を強化することによって、不適切行動を強化していることがよくあります。

 

適切行動支援が『罰』を使わないもう一つの理由は、『罰』を与えて不適切行動を無理に止めさせても、別の不適切行動が新たに始まってしまうことが多々あるからです。例としては、子どもがくるくる回るたびに身体を抑えていたら回らなくなったが、奇声をあげるようになったとか、登校拒否の子どもを叱咤して学校に行かせたら、おもらしをするようになった、などがあげられますが、行動の根となっている理由を理解せずに、行動だけを矯正しようとすれば、身体のどこかに無理がでます。望ましくない行動を減らすためには、まず、その下に隠れている理由(行動の機能)を理解することが大切です。

 

今回は、適切行動支援の中核となる考え方、「罰」を使わない理由を中心に説明しました。次回は、罰を使わずにどうやって望ましくない行動を減らしていけばよいのか、「予防法」と「緊急対策」について説明します。

 

執筆者:ゲラ弘美(同協会代表・知的発達障害心理士)

文:認定NPO法人ポーテージ協会の機関紙「Portage Post2018 年秋号の掲載文を一部修正し転載